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25.11.25
伊原 薫
大阪生まれ・大阪育ちの鉄道ジャーナリスト。2013年よりライター・カメラマンとして活動。京都大学大学院の交通政策研究ユニットで学び、都市交通政策技術者として非常勤講師なども務めた。

鉄道会社と人々をつなぐ接点といえる「駅」。そのすべてにはさまざまな歴史があり、ある駅は昔のまま、ある駅は大きく姿を変えながら、今日も皆さんの生活を支えています。
このシリーズでは、阪急・阪神沿線を中心に昔の写真を掘り出し、今の姿と見比べながらご紹介します。今回取り上げるのは、阪急電鉄の神戸線と今津線が交わる西宮北口駅です。

阪急電鉄が営業を開始したのは、明治43(1910)年3月10日のこと。この時は梅田駅(現:大阪梅田駅)から宝塚駅に向かう路線と、その途中の石橋駅(現:石橋阪大前駅)から分かれて箕面駅に伸びる路線だけで、社名も「箕面有馬電気軌道」と名乗っていました。
その後、同社は社名のとおり宝塚から有馬への延伸を試みますが、結果的に断念。一方で、神戸方面へと路線を延ばすことにしました。
当初は十三駅から伊丹駅付近を経由して門戸厄神駅付近までの線路を建設し、そこで灘循環電気軌道という別会社の路線に接続する計画でした。
ところが、不況の影響で灘循環電気軌道は路線の建設が困難となったため、同社が持っていた路線建設の権利を箕面有馬電気軌道が譲り受けることに。これをきっかけとして、大阪~神戸間をより早く結べるよう、現在のルートへと計画を変更しました。
大正9(1920)年、神戸線の十三~神戸間が開通。同時に今回の“主役”である西宮北口駅も開業しました。もし、灘循環電気軌道が路線を建設していたら、西宮北口駅は今と全く別の場所にできていたのかもしれません。


神戸線が開通した翌年、宝塚から南下する西宝線(現在の今津北線)が開通。西宮北口駅は乗換駅となります。さらに、大正15(1926)年にはこの西宝線がさらに南下し、阪神電気鉄道の今津駅まで延伸されました。そして、この時に誕生したのが「ダイヤモンドクロス」です。

ダイヤモンドクロスというのは、2つの線路が十字路のように平面交差する場所のこと。全国的にも珍しく、現在は愛知県と高知県、松山県の合計3か所しかありません。
かつてはもう少し数があったのですが、現役のものを含めてそれらはいずれも片側(あるいは両方)が路面電車だったり、めったに列車が走らない線路だったりと規模が小さなもの。西宮北口駅のような、普通鉄道同士のダイヤモンドクロスはここが全国唯一でした。

西宮北口駅のダイヤモンドクロスは80年近くにわたって活躍。一日あたり数百本という列車がここを駆け抜け、いつしか“駅のシンボル”とまでいわれるようになりました。
ところが、増え続ける神戸線の利用者に対応するため駅の改良工事が計画された際、ダイヤモンドクロスがあることが壁となり、ホームを延伸できないという事態に。
昭和59(1984)年にダイヤモンドクロスは撤去され、今津線の列車はこの日以降、同駅を境に北側と南側に分断されました。


役目を終えたダイヤモンドクロスのレールは、一部が鉄道会社の車庫などに転用されたほか、同駅近くの公園にモニュメントとして設置され、その存在を今に伝えています。

一方、西宮北口駅の改良工事は昭和57(1982)年に始まり、5年後に現在の橋上駅舎が完成しました。この時、ダイヤモンドクロスに代わるシンボルとして設置されたのが、コンコースの中央にある「カリヨン広場」。中央には17個の鐘が取り付けられた「カリヨンの鐘」があり、1日に4回、それぞれ違う曲を奏でてくれます。

高い天井はガラス張りで太陽の光が降り注ぎ、周辺にはベンチも設けられているので、待ち合わせスポットとしてだけでなく、ここでくつろぐ人も。取材している間も、人が途絶えることはありませんでした。

また、西宮北口駅は“駅ナカショップ”が多いのも特徴。カフェやベーカリー、雑貨店に加え、なんとお花屋さんまであります。スイーツショップなどが通路部分に期間限定で店を出すこともあり、買い物帰りや乗り換えの合間に利用する人が多くみられます。

西宮北口駅の改良工事は、橋上駅舎が完成したことでいったん完了。ただし、この時は「今津南線」とも呼ばれる今津線今津方面へのホームは地上のままでした。
その後、2000年代に入って駅南側の区画整理や再開発が進み、周辺道路の交通量も増えたことから、今津南線が高架化されることに。この工事は平成22(2010)年に完成し、西宮北口駅は現在の姿となりました。

ところで、この今津南線のすぐ横にある交差点には、ちょっと変わった信号機があります。一般的な信号機は、左から「青・黄・赤」という配列ですが、この交差点の西向きの信号機は「黄(点滅)・黄・赤」となっているんです。

もちろん、これには理由が。
交差点のすぐ西側に踏切があり、自動車はここで一時停止する必要があるのですが、もしこの信号機が青色を表示した場合、踏切信号機と勘違いしたドライバーが止まらずに通過してしまう可能性があります。そこで、青色ではなく黄色の点滅とすることで、注意を促しているんです。
皆さんも、ここを通るときは一時停止を忘れないようにしてくださいね。

と、ここで「今津線は高架化されたのに、なぜ踏切が残っているの?」と疑問に思う方もいるでしょう。
よく見ると、この踏切がある線路は、今津線で運用される車両を車庫から回送するためのもの。今津線の車両は駅東側の西宮車庫から神戸線を経由して送りこまれるのですが、神戸線は地平を走っているため、今津南線の線路をすべて高架化してしまうと車両をやり取りできなくなってしまいます。そこで、この回送線だけが地上に残っているというわけです。

ちなみに、この踏切が閉まるのは早朝と深夜の1日2回だけ。なかなか貴重だということもあり、地元の人でも思わず写真を撮ってしまうようです。

さて、この交差点の南側にはかつて阪急西宮スタジアムがあり、プロ野球チーム「阪急ブレーブス」が本拠地としていました。阪急ブレーブスは昭和63(1988)年にオリックス・ブレーブスとなり、2年後には本拠地が神戸に移転。その後も西宮スタジアムは営業を続けていましたが、老朽化などに伴って平成14(2002)年に閉鎖されました。

西宮スタジアムは平成17(2005)年に解体が完了。その跡地には阪急西宮ガーデンズが建設されました。関西最大級のショッピングモールとして平成20(2008)年11月にオープン。
阪急百貨店を核として多彩なショップが集まるほか、映画館なども備えており、一日中過ごせる施設となっています。

そして、施設内にはかつて球場があったことを教えてくれるものが2つあります。一つは、本館4階「スカイガーデン」の一角にある、ホームベースのモニュメント。実際に西宮スタジアムのホームベースがあった場所に設置されています。
ただし、「スカイガーデン」は工事のため、令和8(2026)年2月28日まで閉園中。ぜひ来年3月以降に見に行ってくださいね。

もう一つは、本館5階の「クリスタルガーデン」に設置されているジオラマで、在りし日の西宮スタジアムや西宮北口駅が精巧に再現されています。ダイヤモンドクロスやその周辺にあった花壇も忠実に作られており、当時を知らない人でも思わず見入ってしまうに違いありません。

阪急西宮ガーデンズから今津線の線路を隔てた反対側には、兵庫県立芸術文化センターがあります。こちらは阪神・淡路大震災からの「心の復興・文化の復興」のシンボルとして平成17(2005)年に開館したもので、大・中・小の3つのホールを備え、音楽や演劇、バレエといった様々な文化芸術を発信。専属オーケストラもあるほか、芸術監督を指揮者の佐渡裕さんが務めることでも知られています。


ちなみに、令和7(2025)年11月29日には開館20周年を記念した「オープンデー」を開催。オープニングには阪急電鉄吹奏楽団によるウェルカム演奏会が行われるほか、さまざまなイベントが予定されています。お時間がある方はぜひどうぞ。
▼「兵庫県立芸術文化センター」の詳細はこちら
兵庫県立芸術文化センター

一方、駅北側には飲食店などが立ち並び、こちらも終日にぎわっています。このエリアの特徴は、ベーカリーが多いこと。西宮は神戸などとともにパンの消費量が多いエリアといわれており、駅構内にも複数のベーカリーがあるほどです。
そんなお店の一つが、今津線の踏切近くにある「五穀七福」。神戸で60年以上の歴史を持つベーカリー「Cascade」のチェーン店で、米粉や雑穀をはじめ日本古来からの素材を使ったパンを提供しています。

取材中も焼き立てのパンがどんどん並べられ、お出かけ帰りの人々が買い求めていました。店内にはイートインスペースもあり、こちらも盛況。地域に愛されているのを実感しました。


▼「五穀七福」の詳細はこちら
五穀七福
そして、駅北側といえばもう一つご紹介したいのが、阪急電鉄の西宮車庫です。
神戸線の開業当初からあり、現存する阪急の車庫では最も古いもの。この日はさまざまな現役車両に交じって、まもなく神戸線でもデビューする新型車両・2000系の姿が見られました。時が流れ、ここに集う車両が変わっても、果たす役割の重要さは変わりません。


おしゃれな街というイメージで知られる一方、新しい街並みの中に古いものへのリスペクトが感じられる西宮北口エリア。皆さんも乗り換えの際にいったん改札を出て、ふらっと散策してみませんか?
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鉄道ジャーナリスト
伊原 薫
鉄道や旅、街づくりに関する記事を雑誌やwebで執筆するほか、テレビ出演や監修、公共交通と街づくりのアドバイザーとしても活躍する。鉄道の専門家ならではの目線で、阪急沿線の魅力をお届けします。
2025.11.19 - 2025.11.25