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26.02.02
フードアナリストあい
大阪を拠点に、日本と韓国の食文化を軸とした取材・執筆を行うフードアナリスト。

阪急箕面駅を降りてすぐ。観光客でにぎわう駅前の一角に、やさしい空気をまとった店があります。同市・桜井で親しまれてきた「どじょう」が、令和7(2025)年11月、阪急線・箕面駅前へ移転オープンしました。
おにぎりと出汁、そしてナチュラルワイン──少し意外にも思えるこの組み合わせが、なぜ箕面の街に自然と溶け込んでいるのか。その背景をたどります。
「どじょう」が最初に暖簾を掲げたのは、阪急桜井駅前。平成27(2015)年2月のオープンから、約10年にわたり営業を続けてきました。
旧店舗は6席のみという小さな空間でしたが、「ナチュラルワインとお出汁」をテーマに掲げ、ワイン好き・和食好きの大人たちが静かに集う存在として知られていました。
昆布と鰹節をベースにした無添加のお出汁と、それに寄り添うナチュラルワイン。ゆっくり食べ、飲み、会話を楽しむ──そんな時間が、日常の延長として流れていた店です。
店主の津吉さんは、25年前にソムリエ資格を取得し、京都のおばんざい店で約10年にわたり店長を務めてきた料理人です。その傍らで、奥様も同店の副店長として現場に立ち、二人三脚で飲食の経験を重ねてきました。
その積み重ねが、「どじょう」の味と空気感の土台になっています。

移転を考え始めた理由は、「席が足りなくなったから」という単純なものではありませんでした。
6席という空間では、伝えきれなくなってきたワインのおいしさや、食材の良さを、もっと多くの人に届けたい。そしてもうひとつ、「育ててもらった箕面に恩返しがしたい」という思いもあったといいます。
移転計画は、店主自身が「かなり壮大なプロジェクトだった」と振り返るほど。構想から実現までに約2年をかけ、立地、店のあり方、昼と夜の使い分けまでを丁寧に組み立ててきました。
10年という節目を迎える令和7(2025)年11月、選ばれた新天地が阪急箕面駅前。観光客も行き交うこの場所で、「おにぎり×出汁×ワイン」という新たなかたちに挑戦することを決めたのです。
旧店舗では夜営業のみでしたが、新店舗では昼間から営業を開始。これまで来店できなかった人たちや、箕面を訪れる国内外の観光客とも、自然につながる店になりました。

昼の「どじょう」は、おにぎりが主役です。

冷めてもおいしいお米、ほどよい歯応えが残る海苔、具材の味を引き立てる計算されたバランス。ひとつの小さなおにぎりの中に、丁寧な研究がぎゅっと詰まっています。
おにぎり専門店としてオープンした直後にはSNSで話題となり、300個用意しても、ほとんど毎日のように昼前には完売していたそうです。
そうした人気を支えているのが、定番として選ばれる三つのおにぎり。
「箕面ゆず肉味噌」「梅大葉ツナマヨ」「卵黄醤油」は、それぞれに異なる魅力を持ちながら、どじょうのおにぎりらしさを象徴する存在です。
なかでも「箕面ゆず肉味噌」は、この土地ならではの一品です。箕面は大阪府内でも数少ない柚子の産地で、大粒で香りが高く、高級品として知られています。その柚子を使った肉味噌は、口に運んだ瞬間にふわりと香りが立ち、後味は驚くほど軽やか。箕面という場所性を、そのまま味に落とし込んだおにぎりです。

梅のほどよい酸味と大葉の爽やかな香りが、ツナマヨのコクを軽やかにまとめる一品です。後味がすっきりしているため、最初のひとつとしても、最後の締めとしても選ばれやすく、世代を問わず支持されています。重たさを感じさせないバランスは、出汁を大切にしてきた「どじょう」らしい仕上がりです。

とろりとした卵黄を醤油でシンプルに味付けし、ごはんの甘みをまっすぐに引き立てるおにぎりです。噛むほどに卵黄のコクが広がり、余計な主張をしない分、お米そのもののおいしさが印象に残ります。素材の良さと握り加減が際立つ、定番でありながら完成度の高い一品です。

店内ランチ限定の「おばんざいセット」では、好きなおにぎり2つに、丁寧に作られたおばんざい3種、豚汁、自家製漬物が付きます。注文してから握られるおにぎりはふわふわで、具材もたっぷり。お米のおいしさに夢中になり、気がつけば完食している、そんな昼ごはんです。

テイクアウトでは、限定15食の「山の海苔弁」も人気。お出汁がふわっと香る大人の味わいで、午前中に売り切れる日も少なくありません。

昼はおにぎりと出汁のごはんを提供する「ひるのどじょう」。
そして週に3日だけ、店はもうひとつの顔を見せます。
よるのどじょうとは、お出汁を軸にした料理とワインを楽しみながら、ゆっくり食べ、話し、ほどけていく夜の時間のこと。
昼の象徴でもある大きなおにぎりの暖簾を外し、出汁のきいたあたたかい一品とナチュラルワインを楽しむ時間が始まります。毎日違う、約10種類のグラスワインの中から好みの一杯を選び、〆にはやはりおにぎりを。
昼はいつものごはん、夜は少し特別な時間。
その二面性こそが、今の「どじょう」を形づくっています。

「おにぎりとワイン」という組み合わせは、一見すると意外ですが、「どじょう」ではごく自然な光景です。無添加で丁寧に引いたお出汁の料理と、作り手の顔が見えるナチュラルワイン。その調和を、肩肘張らずに楽しめることが、この店の魅力です。
また、夫婦で営むからこその距離感も印象的です。喧嘩をすることもあるけれど、すぐに仲直りしないと店が回らない。その日常が、料理や接客の温かさにつながっています。生産者の顔が見える食材や、珍しいヴィンテージワインとの出合いも、訪れる楽しみのひとつです。
現在は週3日の「よるのどじょう」ですが、今後は週5日、6日へと増やしていきたいと店主は話しています。昼と夜で表情の異なる店だからこそ、その二面性をより明確に伝えていく必要があると感じているとのことです。
また、長年の夢として温めてきたのが、ワインショップの開店です。料理とともに培ってきたワインの提案を、より日常に近いかたちで届けたいと語っています。
あわせて、現在すでに行っている企業向けの配達やマルシェ出店を含め、ケータリングの取り組みも強化していきたい考えだそうです。

取材を通して強く感じたのは、「どじょう」が無理に新しさを打ち出そうとしていないことでした。おにぎり、出汁、ワイン。どれも決して派手ではありませんが、一つひとつに積み重ねてきた時間と経験がにじんでいます。その背景にあるのが、ご夫婦で歩んできた飲食の現場と、10年という歳月です。
昼はおにぎりで街の人や観光客の胃袋を満たし、夜は出汁とワインでゆっくりとほどけていく時間をつくる。その二つの顔は対照的でありながら、どちらも「日常の延長線上」にあります。特別すぎず、でも確かに記憶に残る。その距離感が、箕面という街にとてもよく似合っていると感じました。
2年をかけた移転プロジェクトの話からも伝わってきたのは、流行や勢いではなく、「この場所で、長く続けていく」ことを見据えた店づくりです。おにぎり一つ、ワイン一杯の向こう側に、人と街を思う視線がある。そんな静かな強さこそが、「どじょう」が箕面で選ばれ続ける理由なのかもしれません。

| スポット名 | どじょう |
| 時間 | 月・水・日曜/10:00~14:00 木・金・土曜/10:00~14:00 、18:00~22:00 |
| 定休日 | 火曜 |
| 問い合わせ | 072-739-8111 |
| アクセス | 阪急箕面駅下車すぐ |
| 住所 | 大阪府箕面市箕面1-1-45 箕面阪急ビル 1F【MAP】 |
| URL | https://www.instagram.com/dojyo_dashi_du_japonvinnaturel/ http://loach.jp/?utm_source=ig&utm_medium=social&utm_content=link_in_bio&fbclid=PAZXh0bgNhZW0CMTEAc3J0YwZhcHBfaWQMMjU2MjgxMDQwNTU4AAGnUgaVRocOZ59IQOndM-FG66aeF9h9K6m_v5BYj1RM2HNpqwdR5Srq3_ffiys_aem_Fv6t-d7fLNFWUZ8eaNxWVw |
ライター
フードアナリストあい
年間250件以上の飲食店を訪れ、味わいだけでなく料理人の思想や背景までを丁寧に言葉にするフードアナリスト。近年は料理人や生産者へのインタビューにも注力し、「記憶に残る食体験」を軸に、日常と非日常をつなぐ食の魅力を発信している。
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