長岡京・大山崎・向日 TOKK
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26.02.25
津曲 克彦(がりさん)
鹿児島県生まれ。大阪府吹田市出身。龍谷大学国際文化学部(現:国際学部)を卒業後、新聞社や出版社、編集プロダクションなどを経た後、2015年からフリーライターとして活動。

阪急長岡天神駅の改札を抜け、西へ歩くこと約10分。巨大な御影石の鳥居をくぐると、ほのかな梅の香りに、思わず心がときめきました。
長岡天満宮といえば、京都でも屈指の「花の社」です。なかでも4月下旬に真紅の花を咲かせるキリシマツツジが有名ですが、古くからの天神信仰を知る人にとって、今の時期の「梅」はやはり特別な存在。静かな境内で歴史に想いを馳せながら早咲きを愛でる……。春本番を前に、心も安らぐ休日散歩へとご案内します。
高さ約9.8m、総重量50トンもの重さを誇る総御影石製の大鳥居は、長岡天満宮のシンボル的な存在。この鳥居を抜けると、八条ヶ池の景色が目に飛び込んできます。
江戸時代初期、桂離宮を造営した八条宮智忠親王(はちじょうのみやとしただしんのう)によって築造された灌漑用の溜め池は、神社の奥に広がる西山の光景と美しく調和して心が落ち着きます。境内にはかつて八条宮家の別荘があったとも伝わり、この場所が古くから都人にとって癒やしの場所であったことがよくわかります。

そして、さらに時代をさかのぼって平安時代。御祭神である菅原道真公も、この地をこよなく愛していました。道真公は在原業平と共に詩歌管弦を楽しんだと伝わり、大宰府へ左遷された際には、「我が魂長くこの地にとどまるべし」と名残を惜しみ、公御自作の木像を祀ったことが神社の創立といわれています。
皇室の方々も親しんだこの美しい光景を眺めながら、少し池の周囲を散策してみると、早咲きの白梅と八条ヶ池、明治14(1881)年に創業の老舗料亭「錦水亭」の座敷が見えます。
錦水亭といえば、春には名物のたけのこ料理を目当てに多くの人が訪れる名店。時代劇にも度々登場するこの景色を目の当たりにできるだけでも胸が高鳴ります。

八条ヶ池の散策を終え、参道を進むと片隅にある石碑の前で、ふと足を止めました。 そこに刻まれた「温故知新」の文字。この石碑が伝えているのは、「古今伝授(こきんでんじゅ)」という、和歌の奥義をめぐる壮大な歴史のリレーです。
かつて、戦国武将の細川幽斎は、八条宮家智仁親王へ『古今和歌集』の秘伝を授けました。その舞台となった建物(開田御茶屋)は、江戸時代初期にこの八条ヶ池の畔に移築され、親王たちのサロンとして愛されたそうです。
建物は、その後、数奇な運命を辿り明治時代に細川家へ戻され、現在は遠く熊本の水前寺成趣園に「古今伝授の間」として大切に残されています。建物は去ってしまいましたが、ここ長岡京が、日本の文化史における重要な「交差点」であった事実は変わりません。

参道を真っ直ぐ進み、階段を上った先に見えてくるのが、鮮やかな朱塗りの拝殿。その奥には、昭和16(1941)年に平安神宮の旧本殿を移築した本殿があります。平安神宮の厳かな建築美が、そのままこの長岡京の地へと受け継がれているのです。
「我が魂長くこの地にとどまるべし」
藤原氏により都を追われる身となり、そう言い残して長岡の地を去った菅原道真公。その無念と望郷の想いを知ってか知らずか、時を超えて「幻の都」と呼ばれる「長岡京」に、「都の象徴」であった「平安京」へ遷都された桓武天皇をお祀りする平安神宮の旧本殿が道真公の住まいとしてやってくる。
そんな歴史の粋な計らいに思いを馳せながら、朱色の拝殿越しに空を見上げると、道真公の喜ぶ顔が浮かんでくるようです。単なる建築物としてだけでなく、そんな縁の物語ごと、この風景を味わってみてください。

天満宮といえば、道真公の使いである「牛」の像が欠かせません。長岡天満宮にも、数体の牛の像が奉納されています。
なぜ牛なのでしょうか。
道真公が丑年生まれであったことだったり、御愛育されていた白牛が公の御命をお助けになったり、道真公が亡くなられた際に遺骸を運ぶ牛車が座り込んで動かなくなったためその地を墓所と定めた……という伝説など、由来は定かではありませんが、牛が、主を慕う、忠実で実直な従者の象徴なのだということはわかります。
境内にある「撫牛(なでうし)」。
古来、民間信仰として「自分の身体の痛いところを撫でると除病のご利益が、頭を撫でると知恵を授かる」とされてきました。
若い頃なら、迷わず「頭」を撫でていたでしょう。しかし、デスクワークばかりの私がつい手を伸ばしてしまうのは、肩と眼。撫牛を見ると、同じ所が多くの参拝者に撫でられて、鏡のようにつやつやと黒光りしています。
「ああ、みんな同じなんだな」
その輝きは、ここを訪れた数えきれないほどの人々の、切実な祈りの証。その冷たく滑らかな牛の背中を撫でているだけで、道真公が「分かっているよ」と、静かに頷いてくれているような気がするのです。


取材に訪れた2月16日は、まだ境内の梅の花はこれから咲き始めるといった雰囲気。
例年、3月中旬まで梅の花を楽しめるそうです。3月7日には、毎年恒例の「梅花祭」が開催され、お茶席(初穂料前売り券2,200円、当日券2,500円)が設けられるそう。道真公も愛した梅の花を愛でに、長岡天満宮へ足を運びたいものですね。

長岡天満宮を参拝したら、ぜひ授与品を授かりましょう。
春を迎えるこの時期らしい「うめおまもり」は、御祭神の道真公が愛でた「梅」をデザインした透明な御守。背面にはキリシマツツジが描かれています。光に当てると美しく七色に輝くことから、開運導きの御守としてはもちろん、大切な人への贈り物としても喜ばれているそうです。

長岡天満宮の四季の彩りを描いた季節限定の御朱印も授かりたいもの。2~3月限定の御朱印はやはり「梅」。1本の木に紅白の花を咲かせる遅咲きの品種「おもいのまま」をモチーフに、日本画家の丸山勉さんが原画を担当しています。

本殿への参拝を終えたら、隣接する長岡公園へと移動します。境内とシームレスにつながるこの公園の敷地内に足を踏み入れると、紅梅や白梅、しだれ梅などが少しずつ咲き始めています。
視覚的なインパクトで言えば、キリシマツツジや桜が派手でカリスマ性のある豊臣秀吉だとすれば、今の時期の梅は、それを陰で支えた実直な弟の豊臣秀長のような存在でしょうか。決して出しゃばることはありませんが、なくてはならない存在。

2月中旬。まだ寒さが残る中、固い幹から力強くつぼみをほころばせる。その「静かなる闘志」のような生命力は、見る者の背筋を伸ばしてくれます。

「まだ咲いていない」と嘆くのは野暮というもの。鉛(なまり)色の冬空の下、早咲きの梅が咲く光景は、そこだけ灯りがともったような温もりを感じます。近づけばふわりと感じる甘く高貴な香り。そんな「引き算の美学」や「探す楽しみ」を味わえるのが、この時期ならではの魅力。
誰にも邪魔されず、一輪の花と静かに対峙(たいじ)する。それは、忙しい現代人にとって、何よりの贅沢な時間といえるでしょう。


長岡公園管理事務所の担当者さんに話を聞くと、今年の梅の見頃は、2月下旬~3月上旬にかけてとのこと。阪急長岡天神駅は特急も停車する便利さも魅力。一足早い春を感じに、長岡京を訪れてみませんか。
| スポット名 | 長岡天満宮 |
| 受付時間 | 境内自由(社務所は9:00~17:00) |
| 定休日 | 無休 |
| 問い合わせ | 075-951-1025 |
| アクセス | 阪急長岡天神駅下車 約10分 |
| 住所 | 長岡京市天神2-15-13【MAP】 |
| URL | https://www.instagram.com/nagaokatenmangu/?hl=ja |
| スポット名 | 長岡公園 |
| 営業時間 | 自由(管理事務所は9:00~17:00) |
| 定休日 | 無休 |
| 問い合わせ | 075-955-1121(長岡公園管理事務所) |
| アクセス | 阪急長岡天神駅下車 約10分 |
| 住所 | 長岡京市天神2-15-11【MAP】 |
| URL | https://www.instagram.com/nagaoka_park/ |
ライター
津曲 克彦(がりさん)
幼い頃から移動といえば「阪急電車」。マルーンカラーの車両とゴールデンオリーブカラーのシートにくるまれて育ってきた「阪急育ち」です。京都に行くときはもちろん、大阪梅田や神戸、お参りすることが多い清荒神までも阪急を利用するのがデフォルトです。でも、阪急沿線にはまだ降り立ったことのない駅もたくさん!TOKKでの取材を通じて、密かに「阪急全駅下車チャレンジ」を果たそうともくろんでいるのです。ウッシッシ。
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