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26.03.13
津曲 克彦(がりさん)
鹿児島県生まれ。大阪府吹田市出身。龍谷大学国際文化学部(現:国際学部)を卒業後、新聞社や出版社、編集プロダクションなどを経た後、2015年からフリーライターとして活動。

ホテルやレストランの朝食で見かけるポーションマーガリンや、スーパーの棚で目を引くふっくらとした銅板焼ホットケーキ。これらを手がけるメーカーが大阪府豊中市にあるのをご存じですか? 阪急庄内駅から徒歩約12分、穏やかな住宅街の一角に工場を構えるマリンフード株式会社は、令和9(2027)年には豊中でマーガリンを製造して70周年を迎える老舗企業です。
同社が取り扱う1,000アイテムのうち、実に約8割が、他社ブランドとして世に出る「PB(プライベートブランド)商品」。大手スーパーマーケットや有名チェーンがこぞってこの老舗に製造を託す理由は、歴史が磨き上げた高い技術力と、鋭いニッチ戦略が生んだ研究力にありました。
マリンフードの歴史をひもとくと、明治時代から続く石鹸製造にその原点があります。
実は、国内にある老舗マーガリンメーカーの多くが、かつては石鹸屋を母体としていました。一見、全く別物に見える石鹸とマーガリンですが、実は製造において不可欠な「水と油を混ぜ合わせる(乳化)」という共通の高度な技術が必要なのです。
140年前、石鹸作りで培われたこの繊細な「混ぜる」技術が、時代を経て食卓を彩るマーガリン製造へと昇華されました。豊中の地でマーガリンを作り始めてから来年で70年。今も「水と油」という相反する性質を一つにまとめ上げる、伝統の技を磨き上げています。

同社は、大阪府泉大津市や滋賀県長浜市、埼玉県狭山市に工場があり、このうち豊中市の本社工場では、主力商品のマーガリンやホットケーキなどを製造しています。ということで、まずは、マーガリンの製造現場を案内してもらいます。

マーガリンの製造工程は、まさに「緻密な科学」と「職人の勘」の融合です。まず、原料となる油脂や水などを巨大な乳化タンクで撹拌し、均一に混ぜ合わせることで、鮮やかな黄色をした「乳化液」が完成します。この時点ではまださらさらとした液体です。

この乳化液を、急速冷却機へと送り込み、一気に冷やし固めることで、液体は滑らかな固形へと姿を変えます。
驚くべきは、できたてのマーガリンの質感です。急速冷却を終えた直後のマーガリンは、まるで高級なソフトクリームのように柔らかく、驚くほど滑らかな光沢を放っています。
この「理想の柔らかさ」を保つため、冷却温度や撹拌速度をその日の環境に合わせて微調整するのも、熟練スタッフの重要な役割です。


魔法の一瞬。個包装(ポーション)の充填プロセス
取材当日は、同社が手がけるポーションバターの充填する様子を見学しましたが、まるで目の前で魔法を見ているような気分でした。
1枚の平面なプラスチックシートが機械に吸い込まれると、熱と真空の力で一瞬にしてあの小さな容器の形へと成形されます。

そこへ、まだ柔らかい状態のバターが正確な分量で充填され、瞬時にアルミの蓋で密封されます。シートから容器を作り、中身を詰め、蓋をする。この一連の流れが目にも止まらぬ速さで繰り返され、次々と完成品がベルトコンベアを流れていきます。





同社では、使いやすい個包装タイプのバターも製造しています。こちらの包装プロセスも、思わず見入ってしまうほど見事なものです。
四角く形を整えられたバターがラインを流れてくると、そこへ銀紙や専用の包装紙が吸い込まれるように重なります。機械の爪が、まるで熟練の職人が折り紙を折るような速さと正確さで、一瞬のうちにバターを包み込んでいくのです。そのペースはなんと、1分間に270個も作られる速さだそうです。


寸分の狂いもなく角が立ち、ピシッとシワひとつなく包まれた小さなバター。1枚の紙が、柔らかいバターを優しく、かつ強固に守る形へと変わるその瞬間は、まさに「精密機械」と「職人の設計」が融合した芸術品。
目にも止まらぬ速さで整然と並んでいくその列は、日本の食のインフラを裏側から支える、同社のプライドそのものです。

ホットケーキのラインでは、140度に熱せられた巨大な銅板の上で、生地が次々と理想的な焼き色を付けていきます。1日2〜3万枚という膨大な数ですが、ここでも決め手は「人の感覚」です。

生地の広がり方は、その日の気温や湿度、さらには原料となる粉の状態によっても刻一刻と変化します。スタッフは焼き上がりの「顔」をチェックし、ガスの火力をミリ単位で調整します。この繊細な微調整こそが、大量生産品にはない「お母さんが焼いてくれたような」ふっくらとした食感を生み出しているのです。



人の手も交えつつ、現在、マーガリンやチーズ、ホットケーキなど約1,000アイテムを製造するマリンフード。「大手と同じ土俵では戦わない」。研究開発部門の担当者の言葉には、独自の道を切り拓いてきた専門家としての静かな自負が滲みます。
その象徴的な存在が、平成19(2007)年のチーズ価格高騰という危機から生まれた「スティリーノ」。植物油脂を使用したチーズ代替品です。

当初、スティリーノは「低価格」が最大の武器でしたが、開発チームが目指したのはその先でした。「安くても、おいしくなければ意味がない」。
初期の代替品にあった特有の味や粉っぽさを解消するため、油脂のブレンドや乳タンパクの比率を極限まで追求しました。
その結果、今や専門家ですら「本物のプロセスチーズと遜色ない」と驚くレベルの品質を実現。コレステロール70〜80%カットという健康価値も加わり、健康志向の女性やアレルギーを持つ方々の食卓を支える「新たな選択肢」へと進化したのです。
こうした高い技術力や研究力があってこそ大手スーパーマーケットや有名チェーンが、こぞってPB商品の製造を依頼していることがよくわかります。この「選ばれる黒子」としての実力が、あの有名レストランの隠し味や、あのスーパーのヒット商品を生み出しているのですね。
マリンフードを語るうえで欠かせないのが、工場を構える豊中への深い「慈愛」の精神です 。
昭和60(1985)年から40年以上続く、本社工場前の「ふれあいセール」。当初は住宅街にある工場として、騒音などで不便をかける近隣住民への「感謝とお詫び」から始まりました。今や一切の広告を出さないにもかかわらず、早朝から200人近くが並ぶ地域の風物詩となっています。

「物価高騰が続く今だからこそ、少しでも安く提供して家計を助けたい」。その想いは、もはや「企業の販促活動」の域を超え、地域と手を携える「家族」のような絆へと変わっています。
また、豊中市の教育行政に対する27年間の継続的な支援も特筆に値します。家庭の経済格差が教育の格差にならないよう、年間で約1,200名(小学生695名、中学生550名)の子どもたちにプロの塾講師を派遣する費用を負担しています。
「100点を取ることが目的ではなく、わからないことがわかるようになることで、自分に自信を持ってほしい」。この活動は内閣府からも高く評価され、これまでに7度の紺綬褒章を受章しています。
利益を単なる数字として追うのではなく、地域の子どもたちの「自信」へと還元する。これこそが、同社が掲げる姿勢の表れだといえます。



阪急沿線の日常を支えるポーションマーガリンやスティリーノの裏側には、職人の手触りと、地域の子どもたちを見つめる誠実な眼差しが詰まっています。
次にスーパーやレストランで。マリンフードが手掛けた製品に出会ったとき、この豊中の街で働く人々の姿をぜひ思い出してみてください。そこには、流行に流されず、自分たちが信じる「ニッチの極意」を貫き通す、格好いいプロたちの姿があります。
そんなマリンフードの商品を購入できる「ふれあいセール」。次回の開催は以下の通り予定されているとのこと。ぜひ、足を運んでみてはいかがでしょうか。
【開催日時】令和8(2026)年3月29日(日) 8:00〜16:00
※当日は早朝から行列ができる場合がございますが、
近隣の方々へのご配慮をお願いいたします 。
【会場】マリンフード株式会社 本社工場前(大阪府豊中市豊南町東4-5-1)
【主な販売内容】銅板焼ホットケーキ、スティリーノ、各種チーズ、マーガリン類など
| スポット名 | マリンフード株式会社 |
| 問い合わせ | 06-6333-6801(代表) · |
| アクセス | 阪急庄内駅下車 約12分 |
| 住所 | 大阪府豊中市豊南町東4-5-1【MAP】 |
| URL | https://www.marinfood.co.jp/ |
ライター
津曲 克彦(がりさん)
幼い頃から移動といえば「阪急電車」。マルーンカラーの車両とゴールデンオリーブカラーのシートにくるまれて育ってきた「阪急育ち」です。京都に行くときはもちろん、大阪梅田や神戸、お参りすることが多い清荒神までも阪急を利用するのがデフォルトです。でも、阪急沿線にはまだ降り立ったことのない駅もたくさん!TOKKでの取材を通じて、密かに「阪急全駅下車チャレンジ」を果たそうともくろんでいるのです。ウッシッシ。
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