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25.12.03
野村
大阪を拠点に関西のあちこちに出没する取材ライター。おもに京阪神エリアで取材しています。

かつて日本の多くの家に当たり前のように存在した「欄間(らんま)」。採光や通風のための実用性に加え、繊細な彫刻が生み出す美しさは、暮らしを彩る“日本の意匠”そのものでした。その欄間の国内有数の産地が、実は大阪なのです。全盛期には大阪で作られた欄間が全国へと送り出され、職人たちの技が日本中の家庭を支えていました。
今回訪ねたのは、その大阪欄間を60年以上にわたって作り続けてきた欄間職人・木下文男さん。伝統を守りつつも“止まったらあかん”という信念のもと、時代に合わせた新しい創作にも挑み続ける職人です。工房にあふれる作品を前に、欄間が歩んできた歴史と、これからの未来について伺いました。

欄間職人 大阪欄間工芸協同組合 理事長 木下文男さん
京都府綾部市出身の84歳。中学卒業後、建具職人を目指して京都から大阪へ。しかし就職先の建具店が倒産してしまったことから、知り合いの紹介で欄間職人の道に進み、以来60年以上にわたって欄間職人としての道を歩んできた。大阪欄間はもちろん、欄間の技術を活かした創作活動や欄間について知ってもらうためのPR活動なども精力的に行っている。
「欄間」とは日本家屋で和室と和室の間や、和室と廊下の間にある天井と鴨居の間に取り付けられる部材のこと。採光や換気を目的にしており、障子や細工を施した板が主に使われています。
なかでも「大阪欄間」は、「彫刻欄間」や「透かし彫り欄間」「埋込欄間」「組子欄間」「節抜欄間」など、さまざまな技法が用いられているのが特徴です。実用性はもちろんですが、その美しい木彫りの記述は唯一無二。昭和50(1975)年には国の伝統工芸品にも指定されています。

現在では寺社仏閣などでその技術が生かされており、全国各地の神社やお寺には大阪の欄間職人が手掛けた彫刻が使われています。
今回お邪魔したのは、摂津市内にある「大阪欄間工芸協同組合」理事長・木下文男の工房兼事務所。木の香りが広がる工房内には、欄間の技術を駆使した小物やオブジェなどが、あちこちに飾られています。



欄間を作り続けて60年以上の熟練職人の木下さん。
さっそく大阪欄間の現状について伺うと、「昔は『欄間がない家は安もんや』なんて言われていた時代もあって、日本全国に欄間を送っていました。作ったらすぐ売れたし、生産が追いつかなかったほど。でもだんだんと下火になってきて、阪神淡路大震災をきっかけに、ガクッと欄間を入れる家が減りましたね」と話す木下さん。
阪神・淡路大震災時に起きた火災の影響などで、木造建築のなかでも日本家屋が激減。洋室がメインの家やマンションが増加しただけでなく、和室を設けた家も減っている状況。それゆえ欄間の需要も下降し、現代では欄間そのものを知らない日本人も増えています。
そんな状況ゆえ「欄間だけではいけない!」と、欄間作りの技術を活かして、さまざまな創作活動をおこなっている木下さん。木下さんと同じく伝統工芸士の娘さんと一緒に雑貨やアクセサリー、オブジェなどを手掛けています。
工房内にも飾られている透かしの技術を駆使したインテリア雑貨だけでなく、名刺入れや、ブローチなどの小物もあり、大阪欄間を身近に感じられるアイテムもさまざまです。かわいらしいデザインと精巧な作りに惚れ惚れします。


「止まったらあかん」という信念のもと、時代に合わせた取り組みをおこなっている木下さん。欄間の制作においても、そのスピリットが現れています。

「花鳥風月」「鶴」「亀」「松」など、縁起の良い絵柄を見かけることが多く、伝統工芸らしい厳格なイメージがある欄間。家庭からのオーダーでは少しずつ絵柄にも変化があるのだそうです。


「最近私に欄間を注文してくれる方は、とてもおもしろい絵柄の注文が多いんです。例えば関西国際空港の近くに住んでいる方からの注文には、空港やツインタワー、淡路島を入れて欲しいというオーダーがあって」と、『せっかく欄間を作るなら』とオリジナリティを求める方が増えているのだとか。
これまで見たことのない欄間の絵柄に興味津々に。過去に有名キャラクターとのコラボ作品を作ったこともあるという木下さん。
想像よりも自由な欄間の世界にびっくりしつつも、「もし自分がオリジナルのデザインを注文するなら、どんなデザインにしたいか」、思わず妄想が膨らみます。

「伝統的な柄でないと嫌だという職人さんもいると思いますが、私はデザインを考えるのが好きで、とても楽しいから自由にオーダーしてくださるのは、うれしいですね」と、楽しみながら新しい表現を追求しているそうです。
さまざまな工程から成る欄間作りのなかでもデザインの工程が一番好きな作業なので、「苦にならない」と笑顔で話す姿が印象的です。
伝統的な欄間に現代的なものを取り入れたり、欄間の技術を使ってインテリア作品を作ったりと、時代に合わせた取り組みをおこなっている木下さん。
実は近年では大型のアート作品も手掛けているそうで、茨木市にある物流施設「アルファリンク茨木」には、木下さんの作ったアート作品が展示されています。


「こんな木のオブジェをいくつも組み合わせたアート作品を作りました。杉の木を使って作っているんですよ」と、パーツを見せてくれた木下さん。見た目も滑らかですが、触ってみると想像以上にスベスベの滑らかな質感に驚かされます。


こちらの作品を見た人からオーダーが入り、現在も大型アート作品の制作も進行しているのだそう。80代と高齢ながら、異なる分野でも臆さず飛び込む姿勢には頭が下がる思いです。
このように柔軟な姿勢や発想は、何からインスピレーションを得ているのでしょうか?
木下さんにインスピレーションや普段から心がけていることを尋ねてみると、「日本企業で100年続いているのは3%。続いているのは理由があって、元のものを大切にしつつ、次から次へと新しいものを考えて世の中に出していること。だからその姿勢が大切だと思います」と、教えてくれました。

こういった考え方だけでなく、普段からものを見ることも大切しているという木下さん。「例えば花を見るときは、花びらは何枚あって、どんな形なのか、無意識にじっくり観察していますね。職業柄やね」と、何でも勉強になるといい、一つひとつの物を丁寧に観察することが、インスピレーションの源なのだそうです。
欄間について知ってもらうべく、日々精力的に活動している木下さん。小学校を訪れて、彫刻刀を扱う小学校4〜5年生に向けて「ミニ欄間作り」を教えたり、イベントに出展したりと、PR活動にも余念がありません。
体験活動では、あらかじめ型が抜かれた木の板を彫刻刀で立体的に彫っていくというもの。イルカやうさぎ、鳥など、かわいらしい動物のモチーフが象られていて、木下さんら欄間職人の方々が丁寧に教えてくれます。



イベントでのワークショップは子どもたちだけでなく、大人の参加もOK。出来上がったミニ欄間は持ち帰って飾れます。
伝統を守りつつ、新しいアイデアにも積極的に挑戦する木下さんの姿は、とても軽やかで、工芸の世界の可能性を感じさせます。木下さんの取り組みを見ると、欄間は「昔のもの」ではなく、これからも形を変えて残っていく文化だと実感しました。
家庭に導入するのは難しいかもしれませんが、体験事業や小物など、気軽に欄間を取り入れられるものもあるので、大阪欄間の世界に触れてみてはいかがでしょうか。
▼大阪欄間工芸協同組合ホームページ
https://osaka-ranma.com/
▼木下らんま店ホームページ
https://kinoshitaranmaten.hp.peraichi.com/
ライター
2026.1.4 - 2026.1.10