十三・淡路・上新庄 TOKK
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26.01.27
S子
京都生まれ・京都育ち・大阪在住。関西の街ネタ系出版社や仕事情報系出版社に勤務し、関西の街・文化・人・食にまつわる企画の編集・取材・執筆に多く携わった後に独立。

阪急京都線・上新庄駅付近で、夜にビルの壁へ映像が投影されているのを見かけたことはありませんか。実はあの建物は、創業80年以上の歴史を持つバネメーカー「三協精器工業株式会社」の社屋。保護猫活動や、羊の牧養、飲食・美容事業など、意外性のある取り組みが注目を集めています。
そのユニークな取り組みの背景と、三協精器工業が大切にしてきた考え方をじっくり伺いました。
三協精器工業は、阪急京都線・上新庄駅から北へ徒歩5分ほど。下町情緒が残る阪急の線路沿いに本社を構える、スプリング(バネ)メーカーです。創業は昭和16(1941)年。80年以上にわたり、金属スプリングを中心とした機能部品をつくり続けてきました。


今回、取材に対応してくれたのは、広報を担当する濱岡直美さんと三枝さあやさんです。「創業したのは淡路のあたりですが、上新庄に移ってからもう50年になります。上新庄は、生活に必要なものが何でもそろう、すごく便利な町ですよ」と濱岡さんは話します。
社屋は、半分が工場、半分がオフィスとして使われています。「建物は古いんですが、実は、食堂だけはオシャレでちょっと自慢なんです」と三枝さん。社内の食堂では、福利厚生の一環として、週に数回、プロによる昼食が無料で提供されているそうで、「社員も楽しみにしている時間ですね」と教えてくれました。

現在三協精器工業は、この本社のほか、札幌市と新横浜市に営業所を構え、北海道士別市や熊本県上益城郡、さらにメキシコにも生産拠点を展開しています。グループ全体で働く社員は、およそ120人。国内外に拠点を持ちながらも、上新庄を拠点に、ものづくりを続けてきた会社です。
三協精器工業が扱うバネのサイズは、線径0.02mmという極細のものから、20mmの太さのものまで実に幅広いそうです。「大きなバネは熊本工場、小さくて精密なものは別の工場というように、拠点ごとに得意分野があります」と濱岡さんは説明します。

用途も多岐にわたります。自動車や、トラクター、コンバインといった農業機械をはじめ、プリンターや複合機、カメラ、エアコンなどの身近な製品、さらに人工呼吸器や酸素ボンベといった人命に関わる医療用器具まで、さまざまな分野で同社のバネが使われています。
伺った上新庄の工場内でも、職人さんたちが用途の異なる多種多様なバネを手がけていました。

「バネは、最終製品になると見えないことがほとんど。いわば裏方的存在です。でも、生活のあちこちで、なくてはならない部品なんですよ」と濱岡さん。
螺旋状のものだけでなく、引っ張るタイプやねじるタイプなど形状もさまざまで、材質も用途に応じて使い分けられています。「高い技術が求められるものが多く、職人として一人前になるまでには最低でも3年はかかります」と話します。

三協精器工業は、創業当時から誰もが名前を知る大手メーカーとも取引を続けてきました。長く支持されてきた理由のひとつが、品質に対する姿勢です。世界標準の航空宇宙品質規格であるJIS Q 9100を取得し、万が一トラブルが発生した場合も、24時間以内に対応する体制を整えています。
その品質を安定して保つために欠かせないのが、社内の仕組みづくりです。「品質保証に関するマニュアルはもちろん、営業用のマニュアルやBCP(事業継続計画)も含めて、毎年必ず見直しています。更新した内容は、全社員に配布しています」と三枝さんは話します。

安定した品質を守るためには、現場で働く人が安心して仕事に向き合える環境も重要と考え、その一環として、備蓄への取り組みも早くから行ってきました。
米やマスクなども常に確保してあり、コロナ禍でも物資に困ることはなかったそうです。熊本地震の際には、本社から熊本工場へトラックで物資を届けたこともありました。
三協精器工業が大切にしているのは、機能や品質だけではありません。その先にある「美しさ」にも強いこだわりを持っているといいます。

「当社では、製品はお客様に贈る“ギフト”だと考えています。だから製造部門の名称も“ギフトプロデュース”なんです」と三枝さん。
その考え方は、日々の業務の細部にまで息づいています。製品を納める箱も、一般的な段ボールではなく、白地にロゴをあしらった特製仕様。お客様に届ける“ギフト”だからこそ、梱包にも気を配っているのです。

社内では、毎日多くのサンプル品が社長室に届けられます。そこでは社長が、図面を見ずに、その形が「美しいかどうか」という観点からで確認が行われ、一つひとつにコメントが添えられて製作者へ返されることがあるそうです。

「社長は、バネを見れば、作った人の状態が分かると言っています」と濱岡さん。実際に、製品のわずかな歪みから職人の様子を気にかけ、声をかけたこともあったとか。繊細さが求められるものづくりだからこそ、心の状態が製品に表れることもある。そうした感覚を大切にしている点も、三協精器工業のものづくりの特徴です。
平成30(2018)年、三協精器工業は飲食事業に参入しました。札幌・狸小路商店街にある飲食店をM&Aで引き継ぎ、その後、北海道士別市で羊の牧場を開設します。老舗バネメーカーとしては意外にも思える展開ですが、この取り組みは突発的なものではありませんでした。

「実は、20年以上前から考えていたことなんです」と三枝さん。「自動車であれば、実際に乗ってみて、乗り心地をお客様にフィードバックすることができます。でも、農業機械については、自分たちが農業をしたことがないため、本当の意味で寄り添えないと感じていました」
そこで、北海道士別市で羊肉料理を提供する飲食店をグループに迎え入れ、そこに卸すために羊の飼育をスタート。牧場では、自社のバネ製品が使われているクライアント先のトラクターやコンバインを使いながら作業を行っているそうです。

さらに令和4(2022年)には、羊の胎盤や脂を使った頭皮用美容エッセンスと美容クリームを展開するブランド「SOYUL(ソユール)」を立ち上げ、事業の幅を広げています。

社内を案内されていると、猫が前を横切ることも。三協精器工業では、保護猫とともに働く風景が、すでに日常の一部になっています。きっかけは、約11年前のこと。出荷場に迷い込んできた、衰弱した一匹の子猫でした。すぐに動物病院へ連れて行き、治療を受けさせたあと、会社で引き取ることにしたそうです。その猫は「ちゃとらん」と名付けられ、今では福社長という役職を持つ存在になりました。

その後も、敷地内に迷い込んだ猫を保護するようになり、現在は本社に13匹、グループ全体では22匹の猫が暮らしています。猫たちは社内を自由に歩き回り、自然と社員同士の会話が生まれるきっかけにもなっているといいます。

また、同社のInstagramにも猫たちが登場し、今ではすっかり“広告塔”の役割を担うように。「猫に会ってみたい」と訪れる人もいて、外部との新しいつながりを生み出す存在にもなっていました。

三協精器工業は、先代から受け継いできた技術を土台に、高品質なバネの製造を続けてきました。その一方で、飲食や農業、美容といった分野にも取り組み、挑戦も重ねています。
そうした取り組みを支えているのが、「やってみたい」という声を最初から否定しない社風です。令和8(2026)年1月から期間限定で行われている、社屋へのプロジェクションマッピングもそのひとつ。「広報からの提案でしたが、やってみたらいいんじゃないかと背中を押してもらえました」と濱岡さんは話します。現在、プロジェクションマッピングは毎晩18時から23時50分まで投影されています。

「当社の活動を知ってもらうことは、社員の喜びにもつながります。マッピングを見学に来られたり、事前にご連絡いただければ、猫に会いに来ていただくのも大歓迎ですよ」とお二人。
ものづくりの現場から、次はどんな発想が生まれるのか。三協精器工業の動きは、今後も気になる存在です。
| スポット名 | 三協精器工業株式会社 |
| 問い合わせ | 06-6322-2931(代) |
| アクセス | 阪急上新庄駅下車 約5分 |
| 住所 | 大阪府大阪市東淀川区上新庄3-19-75【MAP】 |
| URL | https://www.sankyo-seiki.co.jp/ https://www.instagram.com/sankyoseiki/ |
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