桂・嵐山 TOKK
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桂・嵐山 TOKK
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2.12
26.03.19
和田翔
好きな言葉は「一斗二升五合」。お酒とマンガとJリーグも大好きです。最近は私設図書館のお手伝いもやっています。

純金・純銀を鉄に打ち込む伝統工芸「京象嵌(きょうぞうがん)」。かつて大陸で生まれたその技法はやがて日本へと持ち込まれ、刀の鍔(つば)や鎧(よろい)を飾ってきました。現在は主に装身具として、私たちの暮らしを彩っています。
今回訪ねたのは、京都・嵯峨嵐山で3代にわたって京象嵌を作り続ける「中嶋象嵌」。3代目の中嶋龍司さんは、受け継いだ伝統を守りながら、時代に合わせた新しい表現にも挑んでいます。京象嵌の魅力や今後の展望まで、くわしく伺いました。

中嶋象嵌3代目・中嶋龍司さん(株式会社中嶋象嵌 取締役専務)
幼少期から祖父・喜代一さんの仕事場に通いつめ、高校卒業後に大学を中退して弟子入り。伝統的な京象嵌の腕前を磨きながら、「透かし彫り」の技法を取り入れた新たな表現を確立した。全国の百貨店・物産展での実演販売や海外展開にも積極的に取り組む。
「象嵌」とは、その字が示す通り「象(かたど)って嵌(は)めるもの」。金属や木材の表面に細かな溝を彫り、そこに異なる素材をはめ込んで模様を描く工芸品のことです。紀元前に中東のシリアで誕生したとされ、日本には飛鳥時代(6〜7世紀ごろ)にシルクロードを経て伝来しました。
その中でも京都に根づいた「京象嵌」は、鏨(たがね)を使って、鉄の表面に細かな溝を縦横に刻み、そこに純金や純銀を打ち込んで模様を描きます。
洋服の織り目のように細かな溝を刻むことから、京象嵌は「布目象嵌(ぬのめぞうがん)」とも呼ばれます。驚かされるのが、その繊細さ。1mm四方に、なんと7~8本もの溝が刻まれています。目を凝らして見ても確認できないほど精密な作業です。

京象嵌の職人は、この溝を刻む「布目切り」という工程を、手の感覚と耳で聞こえる音を頼りに進めていきます。この感覚が身につくまでに、5~10年はかかるそうです。

模様を打ち込んだ後も、錆止めや漆焼き、研ぎ出しなどのさまざまな工程が待っていて、これら全てを1人の職人が手がけます。熟練の技術が形になった優美で繊細な逸品は、ついじっと眺めていたくなる不思議な魅力があります。

京都を代表する観光地の嵯峨嵐山に工房と店舗を構える中嶋象嵌は、3代続く京象嵌の専門店です。初代の中嶋喜代一(きよかず)さんが19歳のころ師匠のもとで修業をはじめ、ほどなくして自らの工房を立ち上げました。
現在は娘の優子さんが代表を務め、優子さんの息子である龍司さんが3代目として腕をふるっています。
龍司さんが象嵌の世界に魅せられたのは、小学生のころ。学校帰りに喜代一さんの仕事場に立ち寄り、その姿を眺めていたそうです。いつしか「自分も象嵌の職人になろう」と志し、小学校の卒業文集にもその夢を綴りました。
高校を卒業した後は大学に進んだものの、「少しでも早く祖父に教えてもらいたい」と自主退学。それからは祖父のもとで修業を重ねました。
「祖父と一緒に仕事ができたのは10年ほどでした。今でも『もっとたくさん聞いといたらよかったな』と思いますが、祖父から学んだやり方を忠実に守っているつもりです」と龍司さんは語ります。

喜代一さんは孫といえども手とり足とり教えることはせず、見て覚えさせることに徹したそう。それでも2人にとってかけがえのない時間だったことは、母の優子さんの発言からもうかがえます。
「本当は父も無理に継がせる気はなくて、一代限りで終わるはずでした。でも息子が本気で象嵌職人になると決めたから、『そしたら辞められへん。もうちょい頑張らな』と口にしていたのを今でも覚えています」
「実際に手を動かしてもらった方が、ずっと象嵌のことを覚えていてくれる」。龍司さんと優子さんはそんな思いを持ち、祖父の代から始めた「象嵌体験」に今も力を注いでいるそうです。

中嶋象嵌では、伝統的な京象嵌作りの体験プランを用意しています(要予約)。一般プランでは携帯ストラップかペンダントのいずれかが選択可能です(各3,800円)。そのほか、やや小さめのサイズをお手頃に体験できる学生プランも用意されています(1つ2,500円、2つで3,600円)。

嵯峨商店街沿いにある嵐山店には、多くの体験希望者が訪れます(少し離れた本店でも予約すれば体験可能)。年齢層は子どもから大人まで幅広く、台湾やオーストラリアなどの観光客がWebサイトから予約してくることも。
実際に体験できるのは「入嵌(にゅうがん)」の作業です。小さな鉄の地金に純金・純銀の動物や植物などをあしらい、自分だけのオリジナル作品を作りあげることができます。

まずはウサギ、月、桜、紅葉などの豊富な柄から、気に入ったものを自由に選択。ステンレス製の細い棒を使ってパーツをつまみ、竹串も使いながら台座の上に並べて、全体的なレイアウトのイメージを組み立てます。
パーツが上下に重なると剥がれやすくなってしまうため、気を抜けません。


納得いく配置が決まったら、ハンマーで地金に打ち込む工程へ。キンキンと小気味よく金属が触れ合う音を立てながら、剣山状になった溝(布目)にパーツが食い込んで固定されていきます。

あしらった金銀のパーツがしっかり固定されたら、あとは職人さんに渡して仕上げの工程へ。体験はおよそ30分~1時間。特殊な工具は不要なので、子どもから大人まで誰でも楽しめます。

作品が手元に届くまでの時間は、最短で1週間程度、修学旅行シーズンなどの繁忙期であれば1カ月前後と幅があるため、事前に確認するのがおすすめです。

伝統的な技法を今に伝える一方で、龍司さんは新しい表現方法も確立しました。それが「透かし彫り」です。金属板や木材などの素材を彫り抜く彫刻の技法を、京象嵌にも応用しました。
「お客様の『象嵌って、見た目が重たくて地味』という声をヒントに、この技法にたどり着きました」と龍司さんは語ります。従来の京象嵌は、漆の黒地と金銀のコントラストが特徴ですが、あえて黒地の部分をくり抜くことで、金銀の細工がより際立ち、見た目も軽やかになります。

しかし1点の作品に1〜2日分の工程が増えるこの技法を、最初は喜代一さんも受け入れてはくれませんでした。「昔の職人って数を作ってなんぼ、みたいな商売でしたから」と龍司さんは振り返ります。しかし時代とともに、量より質への転換が求められていると感じた龍司さんは、信念を持ってこの技を磨き続けてきました。
現在は、この「透かし彫り」を生かした作品も数多く手掛けており、中嶋象嵌を象徴する匠の技と言っても過言ではありません。「今までのお客様だけでなく、若い人にもたくさん見てもらえたら」と龍司さんは語ります。
体験の場を設ける以外に力を入れているのが、龍司さんたち職人が現地へと足を運ぶ実演販売です。「自分が実際に作る姿を見てもらって、その結果『これいいな』と感じて買ってもらえたら、最高ですよね」と龍司さんは目を細めます。
さらに海外展開にも積極的で、海を渡り実演販売に出向くこともあれば、上海・香港・ベルギー・ボストンなどには中嶋象嵌の作品を扱う店舗もあるのだとか。磨き上げた職人技は、言葉が通じない異国の地でも魅力を放ち続けています。

現在、龍司さんはアクセサリーの枠を超えた立体作品の制作にチャレンジしているそうです。まさに取り組もうとしているのが「香炉」。円柱の側面すべてに布目を刻んでいく作業は、平面とはまた異なる難しさがありますが、だからこそ実現したときの喜びは計り知れないでしょう。
「使う人の身になるもの、使う人を高めてあげるものを念頭に」。初代から続く志を胸に、工房では今日も鉄を刻む音がリズム良く響いています。
| スポット名 | 中嶋象嵌 嵐山店 |
| 時間 | 10:00~17:00 |
| 定休日 | 年中無休 |
| 問い合わせ | 075-871-2610(本店) |
| 住所 | 京都府京都市右京区嵯峨天龍寺北造路町9-1-1【MAP】 |
| アクセス | 阪急嵐山駅下車 約15分 |
| URL | https://www.nakajima-zougan.jp |
| 象嵌体験の申し込み | https://www.nakajima-zougan.jp/try/ |
ライター
和田翔
大阪の北摂エリアを拠点に活動するフリーライターです。日常の少し不思議なあれこれを「なるほど」へと変えられるように心がけています。好きな言葉は「一斗二升五合」。お酒とマンガとJリーグも大好きです。最近は私設図書館のお手伝いもやっています。
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