宝塚 TOKK
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宝塚 TOKK
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26.02.24
笹間 聖子
フリーランスライター/編集者。大阪を拠点に東洋経済オンライン、プレジデントオンライン、AERAデジタルなどで執筆。

阪急電車今津線の宝塚南口駅から逆瀬川(さかせがわ)駅へ向かう途中、進行方向に向かって右側の窓をみていると、鯨のような、ハイヒールを逆さにしたような、不思議な形の建物が現れます。建物の名は、「被昇天の聖母 カトリック宝塚教会」(以下、カトリック宝塚教会)。日本を代表する建築家・村野藤吾(むらの とうご)が設計した、知る人ぞ知る名建築です。
外から見ると鯨。では、中に入ると何が待っているのか? そしてなぜ「鯨」なのか? 令和7(2025)年に献堂60周年を迎えた同教会へお伺いしてきました。
阪急宝塚南口駅から歩くこと約5分。線路の真横、ガタンゴトンと電車の音が聞こえる住宅街に、カトリック宝塚教会は佇んでいます。
十字架を先端に持つ尖塔が鯨の尾びれに、そこから続く、なだらかな屋根のカーブが鯨の背中を思わせる姿から、「鯨の教会」として親しまれています。地面と壁面に境目がなく、「ニョキッと地面から生えている」ように感じる意匠も大きな特徴です。

聖堂竣工は昭和40(1965)年12月のこと。設計を手がけたのは、広島の世界平和記念聖堂や大阪の新歌舞伎座、宝塚市役所など、日本のモダニズム建築を代表する作品を数多く手掛けた名建築家・村野藤吾です。

「大洋を漂いつづけていた白鯨がようやく安住の地をみつけ、岸辺に打寄せられたとでも申しましょうか」。村野藤吾は生前、この教会についてそう記しています。旧約聖書に登場する、「預言者ヨナが鯨に飲み込まれ、三日三晩その腹の中で過ごした」という物語との関連も指摘されている、ユニークな設計です。

中は一体どうなっているのか?
早速、入ってみましょう。

秘密基地のような風情のある木製ドアを開けて聖堂内に足を踏み入れると、荘厳な雰囲気に包まれました。南から北側の祭壇に向かって狭くなる、非対称の三角形空間。自然に、イエス・キリストのいる祭壇に目が吸い寄せられます。カーテンのように折り重なる東側の壁面と、波打つ木製天井のカーブも存在感を放っていました。

「厚さ5mm、幅50mmのラワン材が、曲面になるよう1枚ずつ手で貼られています」と、案内してくださったAさんが教えてくれました。見た目の美しさはもちろん、音響効果も考慮されて造られたものだそうです。聖歌の響きもとてもきれいなのだとか。
祭壇に飾られたイエス・キリストの背景には三層の木の格子があり、それと呼応するように、椅子も格子が基調に。どちらも村野藤吾のデザインで、壁面や天井のカーブとのコントラストが印象的です。

椅子の座面は温かみのあるいぐさで編まれています。実はこのいぐさ、平成23(2011)年から6年かけて、信徒の手で261脚すべてを張り替えたのだそう。椅子によって編み方が少しずつ異なっているのですが、それは信徒たちが、さまざまな技法を身につけたからなのだとか。
「座面の張り替えの時、お金が出てきた椅子もあったんですよ」とAさん。昔の信徒が献金の際に落としたものかも? と想像したそうです。

聖堂内は、かなり暗い印象。それもそのはず、採光のための窓がとても小さいのです。ときに「鯨の胎内にいるよう」と形容されるこの暗さは、祈りに集中するための設計なのかもしれません。
ところが、年に一度だけ、この暗闇が劇的に変わる時間があります。それが春分の日の夕方。そのときだけは、西側のスリット窓から差し込んだ光がまっすぐに祭壇を照らす、光の演出がなされているのです。
祭壇の後ろには、墨色で版画のようなデザインが入ったステンドグラスが……。こちらは完成前のイメージと違ったのか、竣工後に村野藤吾本人が、作野旦平氏の作品に取り替えたものだそうです。同様の改修が何度か行われているそうで、しかし、その費用は村野藤吾がすべて負担していました。
93歳で亡くなる4年前、昭和55(1980)年にカトリックの洗礼を受けていることから、この教会は、彼自身の信仰の対象でもあったからかもしれません。

祭壇横にはパイプオルガンが備えられ、日曜のミサでは、聖歌隊の歌声が響きます。
「聖歌隊は歌が上手と評判です。以前、チェロやヴァイオリンのコンサートをした時も、教会の響きの良さと相まって、『すごく良かった』と喜ばれました」とAさん。
聖堂の奥には中二階があり、そこへ続く階段には、やわらかな曲線を描く金属の手すりが。しっかりと握れ、曲線が手にやさしいこの造形も、村野建築の特徴です。

平成7(1995)年1月17日、最大震度7の阪神・淡路大震災。教会のある宝塚市南口地域も大きな被害を受けました。すぐ隣の信徒会館も被害があったそうですが、この聖堂はほぼ無傷だったそうです。はからずも、非常に堅牢であることが証明されました。
ただし、銅板の屋根は長い年月で隙間が空いて雨漏りしたため、令和6(2024)年に部分改修が行われています。ですが聖堂本体は、創設から60年経った今もほぼ修理を要さないとのこと。設計力の高さがうかがえます。

カトリック宝塚教会は、誰でも見学することができます。建築を学ぶ学生や市民の街歩きイベントの参加者、村野藤吾建築のファンなどが全国から訪れているそうです。
「遠方から来られる方は、『この後、宝塚市役所に行きます』とおっしゃる方が多いですね」とのこと。建築ファンにとっては、セットで訪れる村野建築の「聖地巡礼」スポットのひとつになっているようです。

見学ができるのは、月曜日と国民の祝日、年末年始、夏休みをのぞく日中、事務所が開いている時間とのこと。事務所に声をかけて名前や電話番号を記入すれば、聖堂内を自由に見学できます。予約不要ですが、団体の場合や、信徒による建物の説明が必要な場合は、事前連絡が必要だそうです。
また、急な不在もあるそうなので、訪れる前にはHPで<今週の予定とお知らせ>欄のご確認を。
「敷居が高いと思われがちなんですけど、全然そんなことないですよ。どうぞ気軽にいらしてください」とAさんはにっこり。毎年11月にはバザーも開催されており、地域の方が大勢訪れるそうです。

また、ミサにも誰でも参加でき、特にクリスマスの大きなミサでは、「もろびとこぞりて」ほかよく知られた聖歌が多く歌われるので、荘厳な雰囲気を体験しに訪れてみるのもおすすめです。
村野藤吾の代表作のひとつとも呼び声の高いこちらの教会。その貴重さゆえに「重要文化財への登録を」というお話もあったそうですが、そうなると補修などが教会だけの判断ではできなくなるため、信徒の方々の献金で補修され、大切に守られてきました。
信者にとってこの教会はどんな存在なのでしょうか。最後にAさんに伺ってみました。
「やっぱりここに来て祈ると、神様の近くで祈っているという気持ちになりますね。家でも祈れるんですけど、日曜のミサは特別。『神様に会いに行く』という高揚感がありますね。それから、何かあった時、考えたいことがある時に来て、心静かにお祈りすることもあります。小さい頃は、親に叱られたら来たりしていました」。

きっといつでも、温かく静かに迎えてくれる場所なんですね。
宝塚を訪れた際には、鯨の胎内で心落ち着くひとときを過ごしてみてはいかがでしょうか。

| スポット名 | 被昇天の聖母 カトリック宝塚教会 |
| 開館時間 | 日により異なる |
| 休館日 | 月曜、祝日、年末年始、夏休み |
| 問い合わせ | 0797-72-4628 |
| 見学 | 事務所開所時間内は予約不要(団体は要連絡) ※来館前にHPで<今週の予定とお知らせ>を要確認 |
| アクセス | 阪急宝塚南口駅下車 約5分 |
| 住所 | 兵庫県宝塚市南口1-7-7【MAP】 |
| URL | https://www.takarazuka.org/ |
協力:Togo Murano Archives
ライター
笹間 聖子
モットーは「知られざる営みに光を当てる」。おもなジャンルは企業ストーリー、ビジネス、幼児教育、発酵。規模の大小を問わず、ユニークな経営哲学を持つ経営者の取材を得意とする。
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