豊中・伊丹 TOKK
Clouds
5.98
WEB版「TOKK」が「TOKK関西」にリニューアル
URLが変更になりました
検索する
閉じる
豊中・伊丹 TOKK
Clouds
5.98
26.03.23
津曲 克彦(がりさん)
鹿児島県生まれ。大阪府吹田市出身。龍谷大学国際文化学部(現:国際学部)を卒業後、新聞社や出版社、編集プロダクションなどを経た後、2015年からフリーライターとして活動。

北摂地域にお住まいの方なら、子どもの頃の遠足などで一度は訪れたことがあるかもしれない豊中・服部緑地の「日本民家集落博物館」。 実はいま、この場所が外国人観光客の間で密かなブームになっているのをご存知ですか?
北大阪急行緑地公園駅から徒歩約20分。博物館の敷地に一歩足を踏み入れると、そこは茅葺き屋根の古民家が点在する桃源郷のような異世界でした。地元民こそ知っておきたい「世界基準の癒しスポット」の魅力を深掘りします。
約36,000平方メートルもの広大な敷地内を歩くと、まるで江戸時代にタイムスリップしたかのようなのどかな光景が広がっています。

「野外博物館といえば愛知県の明治村などが有名ですが、実は服部緑地に日本初の野外博物館があることを知っていただきたい」と話すのは、今回、博物館を案内していただいた学芸員の小島久美さん。
開館のきっかけは、今からさかのぼること70年前の昭和31年(1956)。ダム開発によって湖底に沈むことになった岐阜県・飛騨白川の合掌造り民家を、なんとか大阪に移築できないかという話が持ち上がったのが始まりなのだそうです。
当初は、豊中市民俗館として開館しましたが、昭和36(1961)年に、現在の日本民家集落博物館と名称が変わりました。

その後、徐々に民家が移設。現在は、岩手県南部の曲家(まがりや)から南は鹿児島県の奄美大島の高倉まで、国や府の重要文化財を含む12棟の建物が移築されています。

中には、元財務大臣の「塩爺」こと故・塩川正十郎氏の生家である「河内布施の長屋門」(登録有形文化財)や、東日本大震災の際に福島県いわき市で建てられた「板倉の家」という災害復興住宅などもあり、まさに日本の建築史を歩いて巡ることができる貴重な空間となっています。





そんな貴重な建物が並ぶ博物館ですが、最近特に目立つのが海外からの観光客なのだそう。欧米をはじめ、東南アジアやオーストラリア、さらにはバルト三国のラトビアからわざわざ足を運ぶ方もいるというから驚きです。
一体何が彼らをそこまで惹きつけるのでしょうか? お話を伺うと、大きく2つの理由が見えてきました。
ひとつは「SNS映え」です。小島さんによると、ベトナムやタイから訪れた若い女性たちが、アオザイなどの民族衣装を身にまとい、古民家を背景にSNS用の動画や写真を撮影する姿が増えているのだとか。日本の古い街並みとアジアンビューティーな衣装の組み合わせは、確かにとてもフォトジェニックですよね!
そしてもうひとつ、欧米からの旅行者が最も驚き、そして、感動するのが「囲炉裏の火」だそうです。石造りの暖炉が一般的な国の方からすると、木と紙と茅葺きでできた家の中で火を焚くのは「よく火事にならないな!」と信じられない光景なのだそう。

博物館が誕生するきっかけとなった飛騨白川の合掌づくり民家でも、毎日ではありませんが、囲炉裏を体験できます。
日本人の私も、普段、囲炉裏の火にあたる体験はなかなかないのですから、囲炉裏文化のない外国人にとっては、きっと新鮮な体験なのでしょうね。
ボランティアの高馬さんによると、この囲炉裏から舞い上がった煤(すす)が梁や柱につき、シロアリなどの虫が木材をかじるのを防ぐ効果があるそう。加えて、煤がコールタールを塗ったようになり、木材をコーティングすることで、より家を長持ちさせることができるとか。
囲炉裏ひとつをとってみても、ちゃんと合理的な理由があるのですね。

さて、この合掌造り民家。天井を見上げると大きな柱や梁で組み上がっているのですが、なんと釘が一本も使われていません。代わりに「マンサク」という木の繊維を叩いて柔らかくした縄を結びつけておくと伸び縮みし、地震や強風があってもしなやかに揺れてまた元に戻る復元力があるのだとか。昔の大工さんの技術には脱帽です。
また、白川郷では屋根の葺き替えを「結(ゆい)」と呼ばれる相互扶助の仕組みで行っており、1日で100人ほどの村人が集まって片方の屋根を一気に葺き替えていたそうです。そんな地域ぐるみの協力体制があったからこそ、世界遺産として残るほどの見事な景観が守られてきたのですね。

この合掌造り民家、実は建物の構造だけでなく、そこでの「暮らし方」も驚きの連続なんです。特に大家族が発達した地域では、明治の終わり頃には1軒の家に40人もの家族が住んでいた記録があるそうです。
その理由は飛騨白川で盛んだった養蚕(シルクの原料となる繭を作るための蚕を育てること)にものすごい労働力が必要だったから。女性たちが蚕に桑の葉を与え、男性たちが山へ葉を採りに行くという風に、家族総出で生業を守っていました。

さらにユニークなのが「通い婚」というシステム。
これだけ大きな家でも、長男とその奥さんだけが家で一緒に暮らし、次男や三男たちは夜になると相手の女性の家に通い、そこで生まれた子どもは女性の家で育てられるという風習があったのだとか。
限られた資源の中で大家族を維持するための、とても合理的な知恵だったのですね。


もうひとつ、個人的に大プッシュしたいのが、岩手県南部からやってきた「南部の曲家」です。この家の最大の特徴は、母屋と馬小屋がL字型につながっていること。なんと、土間(地面)のところに囲炉裏が切られていて、靴を履いたまま囲炉裏の火にあたることができるんです!


農作業の合間に、泥だらけの足を洗う手間もなく土足のまま休憩でき、目の前には愛馬の様子が見える。この合理的すぎる空間設計、北国の人の気質が表れていて面白いですよね。
ボランティアの方や小島さんも「ここが一番落ち着く」とおっしゃる通り、実際にここに腰を下ろしていると、妙に落ち着いてしまい、取材中にもかかわらず根が生えそうになってしまいました(笑)。
日本民家集落博物館は、歴史を学ぶ場所、というお堅いイメージを覆すような、今どきの楽しみ方ができるのも魅力です。なんと土・日曜には、1日8,000円(10〜16時)で一部の建物を貸し出し。友達と10人で借りれば1人800円と超格安です。
『鬼滅の刃』や『忍たま乱太郎』などの和風アニメやゲームのコスプレ撮影スポットとして、20~30代の女性たちに大人気なのだそう。平日は静かな癒し空間ですが、休日は忍者の格好をした人が歩いていることもあるとか。
これらの貴重な建物は、ボランティアの皆さんの見えない努力によって支えられています。最盛期には80名ほどいたスタッフも、現在は40名程度。高齢化も進む中、炎天下の草刈りや毎日の火の番など、建物を「生きている家」として守り続けてくださっているのです。
煙の匂いに包まれ、パチパチとはぜる火を見つめていると、私たちのDNAのどこかに刻まれた記憶が揺さぶられるのか、不思議と心が休まります。

「小学生の子が、囲炉裏のそばに寝っ転がって『動きたくない、懐かしい〜!』って言うんですよ。知っているはずがないのにね(笑)」という小島さんのエピソードにもほっこりしました。
これから春にかけては、敷地内に梅や菜の花、桃、桜が次々と咲き誇り、さらに美しい景色を見せてくれます。古民家と花々を愛でながら、のんびりお散歩するのも素敵ですね。

今度の週末は、気のおけない友人同士や、のんびりデートに。服部緑地の奥深くにある本物の「日本の原風景」で、極上のタイムスリップ体験をしてみませんか?
| スポット名 | 日本民家集落博物館 |
| 時間 | 9:30~17:00(入館は~16:30) |
| 定休日 | 月曜(祝日の場合は翌日)、12月27日~1月4日 |
| 問い合わせ | 06-6862-3137 |
| アクセス | 北大阪急行緑地公園駅下車 約20分 |
| 住所 | 大阪府豊中市服部緑地1-2【MAP】 |
| URL | https://www.occh.or.jp/minka/ ※4月下旬以降は https://www.minshuhaku.jp に変更 |
ライター
津曲 克彦(がりさん)
幼い頃から移動といえば「阪急電車」。マルーンカラーの車両とゴールデンオリーブカラーのシートにくるまれて育ってきた「阪急育ち」です。京都に行くときはもちろん、大阪梅田や神戸、お参りすることが多い清荒神までも阪急を利用するのがデフォルトです。でも、阪急沿線にはまだ降り立ったことのない駅もたくさん!TOKKでの取材を通じて、密かに「阪急全駅下車チャレンジ」を果たそうともくろんでいるのです。ウッシッシ。
豊中・伊丹のランキング 2026.3.16 - 2026.3.22
おすすめ記事
おすすめエリア