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茨木の「土かべ文庫」 街道の先で出合う、静かに本と向き合う時間

26.02.17

フードアナリストあい

フードアナリストあい

大阪を拠点に、日本と韓国の食文化を軸とした取材・執筆を行うフードアナリスト。

茨木の「土かべ文庫」 街道の先で出合う、静かに本と向き合う時間
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JR茨木駅から少し離れた住宅街に佇む「土かべ文庫」は、築200年以上の古民家を店主が3年かけてセルフリノベーションした読書カフェです。本と珈琲を静かに楽しむための空間には、日常を離れて心を整えたい大人たちが集います。その静かな魅力と人気の理由をひもといていきます。

茨木の古民家で見つけた“静けさの贅沢”|街道の先にある読書時間

大阪・茨木市の住宅街に、ひっそりと佇む古民家カフェ「土かべ文庫」。築200年以上の建物を、店主が3年の歳月をかけてセルフリノベーションし、本と珈琲を静かに楽しむ時間が自然と流れる場所として、少しずつかたちづくられてきました。
壁、床、家具、配線まで——店主が自ら手仕事でつくりあげた空間は、訪れる人を日常の喧騒からそっと引き離してくれます。

最寄りのバス停で降り、住宅街を抜けて歩いていくと、周囲の音が少しずつ遠のいていきます。西国街道沿いに佇む「土かべ文庫」は、江戸時代から続く宿場町の名残が残る一帯にあり、街道散策の途中に立ち寄る人の姿も見られます。

観光地のような賑わいはなく、生活の延長線上にある落ち着いた風景。その中に溶け込む古民家だからこそ、ここへ向かう時間そのものが、気持ちを整える準備になっているようでした。

つち壁文庫 外観

実際に足を運んで感じたのは、にぎやかさよりも静けさを大切にする空気感です。

古民家の落ち着いた佇まいと本棚の存在感が空間になじみ、「静かに過ごせる場所」「一人で落ち着いて本が読める場所」という印象を自然と抱かせます。土間や掘りごたつ、ソファなど居場所を選びながら、それぞれが自分のペースでページをめくる――そんな過ごし方が、この場所の日常として根付いています。

扉を開けた瞬間、外の世界と切り離されたような静けさが広がり、思わず深呼吸したくなる――その感覚こそが、「土かべ文庫」の入口に流れる時間なのかもしれません。

土かべ文庫 3

週2日だけ開く、特別な読書時間|金・土曜の静かな時間

「土かべ文庫」は、通常、金・土曜の12〜18時のみ営業。不定期で日曜に開くこともありますが、決して多くない営業日数こそが、この場所を特別な存在にしています。

「週2日だけ」という限られた時間は、訪れる人にとって自然と気持ちを切り替えるきっかけになります。本好きの常連はもちろん、静かな場所を求めて足を運ぶ人の姿も少なくありません。

店主によると、来店客には一人でゆっくり本と向き合う人もいれば、気の合う相手と穏やかに過ごす人も多く、落ち着いた時間を大切にしたいという思いから足を運ぶ姿が印象的だそうです。

土かべ文庫 4

決まった曜日にだけ扉が開くというリズムも、この場所の空気感をつくる要素のひとつです。日常の延長にありながら、少しだけ特別な時間として意識される存在。金曜日の午後に立ち寄る人もいれば、週末の始まりに静かな時間を求めて訪れる人もいます。

毎日開いていないからこそ、「また来よう」と思える余白が生まれ、読書の時間が生活の中に自然と組み込まれていくように感じられました。

また、サイクルスタンドが設けられていることから、サイクリストが休憩がてら立ち寄る姿も見られます。町の喧騒を離れ、自転車を止めて珈琲片手に本を開く——そんな過ごし方も、この場所ならではの風景です。

土かべ文庫 5

本が主役になる理由|静けさが生まれる空間づくり

店内に足を踏み入れると、まず目に入るのは本棚の存在感です。棚や家具、レイアウトはすべて店主の手によるもので、空間全体に自然な統一感があります。古民家ならではの落ち着いた佇まいも相まって、どこか懐かしく、長く過ごしたくなる居心地の良さが漂います。

店内では、それぞれが本に向き合ったり、静かに言葉を交わしたりと、思い思いの距離感で時間を過ごしています。大きな声が響くことはなく、ページをめくる音や、椅子がきしむ音が空間に溶け込むように感じられます。静けさが保たれているのは、決まりごとによるものというより、訪れる人同士の自然な配慮によるもののようです。

土かべ文庫 6

また、店内には約2,000〜3,000冊の古本が並び、閲覧だけでなく購入も可能。旅行や山、歴史といったジャンルから、エッセイ、コミック、絵本まで幅広く揃い、それぞれの興味や読書のペースに寄り添っています。

毎週10〜15冊入荷する本はInstagramで紹介され、店主自身の読書感想の投稿も注目を集めています。店内で過ごす時間と、そこから発信される言葉。そのどちらにも本と丁寧に向き合う姿勢が通っており、空間から発信まで、一貫した世界観が静かに保たれています。

土かべ文庫 7

読書時間に寄り添う、甘さと一杯|本とともに味わうひととき

「土かべ文庫」の名物は、店主が手作りするドーナツ。オールドファッション風のざっくりとした食感で、素朴でやさしい味わいが特徴です。人気は、ミルクバター、メイプルベーコンナッツ、いちじくホワイトチョコレート。どれも早い時間に売り切れることが多く、訪れたらまずチェックしたい存在です。

珈琲は、古民家の雰囲気と相性の良い飲みやすい味わい。主張しすぎず、読書の集中を妨げない“静かな味”として親しまれています。長時間滞在する人に向けたダブルサイズの用意もあり、ゆったりとした読書時間を支えてくれます。

土かべ文庫 ドーナツ

ドリンクは300円台から、ドーナツも200円台と良心的な価格設定。ドリンク一杯で長く過ごす人も多く、一杯の珈琲を飲みながら本と向き合う時間が自然に生まれています。そうした過ごし方が重なり合うことで、静かな時間を大切にしたい人たちの間で、少しずつ知られる存在になってきました。

食器には兵庫県・尼崎市の「やすとし窯」のものが使われており、一部は店内で購入することもできます。読書と飲み物、そして手仕事の食器まで。細部にまで通う感覚が、この場所の世界観をより確かなものにしています。

土かべ文庫 コーヒー

つくり続けるという選択|「土かべ文庫」という名前に込められた想い

「リフォームにゴールはない」と語る店主は、現在も古民家の追加リノベーションを続けています。当初は倉庫として使うことも考えていたというこの建物ですが、空間で過ごす時間が増えるにつれ、取り壊してしまうのはもったいないと感じるようになり、少しずつ手を入れながら今のかたちにたどり着きました。

棚や家具だけでなく、電気工事の資格を取得して配線まで自ら施工するなど、手を動かしながら空間と向き合う姿勢は今も変わりません。店内の壁に施された土かべも、その延長線上にある手仕事のひとつです。

自らの手で塗り重ねた土かべは、この場所の質感そのものを形づくっており、「土かべ文庫」という店名にも、その時間が重ねられています。

土かべ文庫 10

棚や家具、配線、土かべと、手を動かし続ける理由について店主は多くを語りません。「喜んでいる姿を見るのがうれしいんです」と、穏やかに言葉を添えます。その一言からは、この場所で過ごす人の時間そのものを大切にしたいという想いが、静かに伝わってきます。

令和8(2026)年春〜夏頃には、ひとりでさらに静かに過ごせる“はなれ”が完成予定。本に囲まれた小さな空間もまた、手をかけながら育てていく場所になりそうです。

土かべ文庫 11

取材を終えて|静かな時間が日常に戻る場所

静かに本と向き合う時間は、特別な体験というより、日常の延長にあるものかもしれません。「土かべ文庫」は、何かを消費する場所ではなく、時間を取り戻すための場所として、そっとそこにあり続けています。

忙しさに追われがちな日々のなかで、あえて立ち止まり、ページをめくる。その選択を肯定してくれる場所があること自体が、いまの暮らしにとって大きな意味を持っているように感じました。

スポット名土かべ文庫
営業時間金・土曜12:00~18:00
定休日月~木曜、日曜
アクセス JR茨木駅→阪急バス宿川原停下車 約4分、大阪モノレール豊川駅下車 約16分
住所大阪府茨木市宿川原町10-17【MAP】
URL https://www.instagram.com/tsuchikabe_bunko/

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フードアナリストあい

ライター

フードアナリストあい

年間250件以上の飲食店を訪れ、味わいだけでなく料理人の思想や背景までを丁寧に言葉にするフードアナリスト。近年は料理人や生産者へのインタビューにも注力し、「記憶に残る食体験」を軸に、日常と非日常をつなぐ食の魅力を発信している。

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